(1)の続きです。
なぜ人は指示なしに動けるのか - 『責任』とデザインの事例から (1) - Dossiri - Kamaeru
前章では、イニシアチブを主題にして、
・過去からの/特定個人に帰属する責任
・未来への/共同分有される責任
この二つを相互に往復しながら、個人のマインドフルネスから集団のマネジメントへと方法論を展開していきました。この時に鍵となるのは、AIRR frameworkでした。
後章では、まずはその包摂のプロセスをマルチエージェントから構成される組織間の総合的なプロセスとして理論的に分析していきます。これまでは、単一組織内のプロジェクトを前提として記事を進めてきました。しかし、デザインにおいてはパートナーシップや組織間の協働、それぞれの専門性において相互に監修し合うような意思決定場面、そういったものがしばしば発生します。
組織間のプロジェクトへと理論を拡張する際に、注意すべきことは何でしょうか?
私も勉強中の立場ですので、できるだけ難しい事柄に対しては皆さんと同じ立場として、この記事を書きながら「理解」を進めようとしています。まずは「責任の構造」を再度分析し、前章の暗黙的な前提となっていたものを炙り出します。2章では、そこから、組織間の話を進めていきたいと思います。
後章 組織をまたぐ
1節 責任の構造的設計
あるプロジェクトの話です。
外観デザインに関与するところから私はそのプロジェクトに入りました。この時点で、私と私の所属する部署はプロジェクトの「設計者」の立場ではありません。デザインアイデアと、コンセプトを出してほしい、という程度のものです。
その以前におこなった別プロジェクトにおいて、私が同様にデザインとコンセプトを考えるために途中関与したものについては、組織的な都合上主体的に関与することはできませんでした。設計者は組織の外部に存在し、契約関係上設計の基本的なデザインを私たちの部署は監修する立場となり、私は若手であってその監修以外の業務を任されました。「どのようにプロジェクトをすすめるか」については上席者の権限ですので、能力が不足している私自身の関与は限定的になりました。
今回のプロジェクトでも、私は関与の仕方が近しいものを感じました。ですので、「どう関わるか」、若手としてだけではなく、一歩進んでプロジェクトを能動的に推し進める能力を開発したい、という思いでこのプロジェクトに臨みました。
プロジェクト参入時点で、分かったのはマンパワーの問題を長期的に考えると、どこかのタイミングで設計の手綱が私たちのチームに渡される可能性が(そこそこ)あるということです。組織としてどのような体制とするのかは、自身にとっては不確実性の高い事柄です。最後まで責任がチーム外にある状態が続く場合もあります。一方で、今回の業務において私たちの立場は、珍しく企画段階において比較的時間の余裕があり、設計業務におけるフロントローディングを通して主体的な関与を行うことが期待できそうな状況でした。
この文脈においては、1章で述べたとおり、ジョブ・クラフティング的に考えること-業務を再解釈して再構成するのが可能である、とも言えました。
そのため、参入のレベルを一気に/不自然に深めるのではなく、むしろ人のつながりにおいて意識的に観察し、課題(未済な事柄等)を発見的に整理しチーム内で足並みを揃えながら業務を進めました。このときに行った業務は下記のとおりです。
1 明示的なプロセスでの情報確認: 必要情報の洗い出し。この資料はありますか?や見積メーカーの想定はありますか?といった状況把握的な確認を、「自分で考えて、責任をもってやる」ことを意識しました。この「動き出し」の「機会」として、企業体としてのISOプロセスへの準備という背景によってコミュニケーションがしやすくなりましたので、同時にISOの実効性を感じました。
2 基本設計の前倒し: 超概算前であるこの時期は、顧客と直接顔を合わせて要望を受ける機会が限定されており、むやみに連絡できない/私は直接は関与不可能/何を重視しているのかや、意図等を把握できない…という不確実性の高い状況下でした。個人的には、この時期こそ重要であるのでは…?という感覚でした。情報が足りないだけでなく、進め方が固まりきっていない状況において情報を集めるという主体的関与を行うことで、「予見」と「包摂」を実施できると考えました。
3 密なコミュニケーション: これもまた、「自分で考えて、責任をもってやる」ことの一つとして意識しました。具体的には、作業に集中する時間を取りすぎないこと。他社への確認のための作業を優先すること。特に構造・設備事項における不確実性が高いなかで行う「予見」的設計は、限界条件を把握し、その中で妥当な標準ルールを構成することから始まると思い、そこから着手しました。
あくまで重要なのは1人で突っ走らないことですので、ここは自身に求められた役割を素早く果たすことからになります。
この経験を書きながら思ったのですが、どうやらプロジェクト初期段階では管理者や責任者に対して、(より高度な/経験が要求される)組織をまたぐイニシアチブが成功の鍵となり、それが作業的に分解されて組織内での若手が主体的に関与できる局面へと移行していく、と言うふうに考えることができそうです。責任の構造的設計とは、そういうことなのだと思います。
ここからは理論の話です。以上のことを踏まえるとここでは3つ、責任の構造化の要点を挙げます。
第一に、これは包摂の具体化にもつながりますが、
「自分の判断がどこに跳ね返ってくるか」と
「誰からの判断がどこに跳ね返ってくるか」に注意を払い、全体構造を把握することが大切です。(これをしないと、組織の力学が見えず、適切に現場の違和感を上部階層に共有することができなくなります。仮に共有したとしても、それが有効性のあるフォーマットに乗っていなければ意味がありません。
第二に、調整コストが高く上位者の統合的判断を要するような(設計初期段階の)組織間の調整局面についても、上席者はその段階に応じ、若手の『正統的周辺参加』(Lave & Wenger)を誘導することは単なるコーチング以上の効果をもたらします。若手はいきなり中心的な意思決定者になるのではなく、実際のプロセスの「周辺」で参加し、ベテランの判断や非公式なやり取りを観察・模倣しながら暗黙のルールを内面化していきます。当たり前のことですが、では、どうやって業務として参加させるか、というところです。たとえば、若手は文書やフォーマットや図面の作成・更新・翻訳等を担うことで、実質的な調整プロセスに関与しつつ、最終判断の重みは負わない形で経験を積めます。(AI時代には、この作業が半自動化されることで身体化するのが難しくなるのが課題ですね)
第三に、若手は受動的に指示を待つのではなく、「なぜこの調整が必要か、誰が何を懸念しているか」を能動的に取りに行く姿勢が求められます。
これらの理論的背景は、Thompson の相互依存性理論になります。
◾️ 境界オブジェクトの有効性
組織内で見た時に、この若手などが文書やフォーマット、図面の作成を通して関与を深めることができるような諸々の媒体をStar & Griesemer(1989)は「境界オブジェクト」と呼びました。
"Boundary objects are objects which are both plastic enough to adapt to local needs and the constraints of the several parties employing them, yet robust enough to maintain a common identity across sites."
'Translations' and Boundary Objects: Amateurs and Professionals in Berkeley's Museum of Vertebrate Zoology, Susan Leigh Star and James R. Griesemer
抜粋すると、境界オブジェクトとは、それを用いる複数の当事者それぞれのローカルなニーズや制約に適応できるほど十分に可塑的でありながら、場所を越えて共通のアイデンティティを維持できるほど十分に頑健な対象ということになります。
設計図面を手に取ると分かりやすいかと思います。
・図面は、共通的な使用においては弱く構造化され、一方でそれぞれの個別の使用場所では強く構造化されています。
・図面は世界共通言語でありながら(翻訳の手段)となる、抽象性と具体性を併せ持ちます。図面の作製と管理は、交差する複数の社会的世界ーー若手設計者と熟練設計者、顧客と設計者、専門家と専門家ーーそれらの相互の関係においてプロジェクトの一貫性を発展させ、維持するための重要な媒体です。
設計者はみな、図面をはじめ、仕様書やドキュメント、システム図、概念図などを通して、組織内ひいては組織間の包摂プロセスを実現します。逆に言えば、境界オブジェクトなしでは、多様な集団が合意に至らないまま連続的に協働することは困難です。
「組織間」の包摂プロセスを設計する際は、「全員が同じ理解に達すること」を目標にすることはおそらくできないでしょう(つまり、前章で述べたセンスメイキングが方法としてあてにならないという意味です)。代わりに、各組織がそれぞれの文脈で異なる意味づけをしたまま協働できる境界オブジェクト(仕様書、プロトタイプ、共通のデザインシステムなど)を意図的に設計することが要点になります。これはこれまで前提にしていた「単一組織内での合意形成」とは異なる設計思想を要求します。
たとえば、エンジニア業界のドメイン駆動開発におけるユビキタス言語などが、境界オブジェクトと似た発想になります。明示的に共通の言語を作ることの重要性がここでも謳われていますね。
2節 バウンダリー・スパナー
より小さな組織においては、組織的なプロセスが整備されていないことがしばしばあります。
組織間の関係性が増えるというのは、それだけ設計の断絶的なフェイズとなるような、撤回の効かない意思決定が多く生まれるということです(契約的ガバナンスへの移行)。
つまり、以下いくつかの点においてジョブクラフティングは適用困難になります。
まず、デザイン統括という単一権威の不在により、プロジェクトの一貫性を保持することは厳密には特定個人の役割責任の範疇を超えていきます。それゆえに、また、組織を跨ぐことによって、代理的な統括責任者が全体を見通すことが困難になります(可視性の喪失)。そして、契約的ガバナンスに移行することによって、たとえ可逆性のある形式であったとしても、撤回(体制の巻き戻し)のリスクが大きくなります。
さらに言えば、撤回の動機となる問題は多くの場合、すでにとんでもない状況にまで進展してしまっていることが多いです。組織間の場合、単一組織内のような「反省性→応答性」の反復を行うことができず、いってみれば何を反省すればいいのか明らかでない、誰も悪くないし順調だが、そもそも重要な何かを取りこぼしている…といった状況に陥りやすいのです。
(ジョブクラフティングが前提としていたような)非公式な役割浸透は、口頭合意や慣行の変化で済みますが、一方で組織間の合意は多くの場合契約という法的拘束力を持つ形式に落とし込まれ、後からの修正コストが桁違いに高くなります。これはコリングリッジのジレンマ(技術的ロックイン)が、組織間文脈では契約的ロックインという形で再演されることを意味します。
ゆえに、単一組織内より早い段階での慎重な設計が要求されることになります。
◾️バウンダリースパナーに課せられる課題
社会ネットワーク理論は多くの場合、弱い紐帯や偶発的な結びつきといったプロジェクトのセットアップ時のメリットを多く挙げます。しかし、プロジェクトの継続性を考慮するならば、バウンダリースパナーは「立ち上げたらそこで終わり」という訳にはいきません。
バウンダリー・スパニング・ロールを担う個人は、いずれの組織の正式な権威構造にも完全には属さないという構造的な脆弱性を持ちます。単一組織内の担当デザイナーであれば「統括責任者からの追認」という明確な「権威の回収的着地点」がありましたが、組織間の境界スパナーは、追認を与えるべき単一の主体が存在しないため、その人の行為の帰属先(役割責任)が構造的に宙に浮きやすいという新たなリスクが生じます。
これについて理解を深めるため、バウンダリースパニングを、もう少し動的に説明してみましょう。
本来、Burtなどの初期の研究モデルではバウンダリースパニングは、ある社会ネットワークともう一つの社内ネットワークとのあいだにある構造的空隙を架橋することにありました。これはその後、架橋し、その役割を構造化し、誰もが利用できる繋がりへと移します。これを仮に「飽和のプロセス」と呼びましょう。バウンダリースパナーは、プロジェクトが軌道に乗るにつれて意図的に自らの介在を減らし、当事者同士の直接的な関係構築に委ねていくといったふうに、能動的に撤退していきます。しかし、それは撤退だけの一方向ではないことに注意を払うべきであるため、私は「飽和」という言葉を選びました。社会構造内の接続性を促し、同時に新たな接続を探索する。この一見対立する二つは、片方を行うことがもう片方の主体性の獲得に貢献する、という相互に支え合う往復運動です。この点について、Kauppilaらの研究(2023)では、ブローカー個人が組織内の社会的ネットワークにおけるつながりを増加させることによって、同時に、自らのネットワークの拡大を促進する「opening」の行動を活性化し、その結果として、自身が構造上有利なポジションを再び活性化できることを論じています。(Opening new brokerage opportunities while closing existing ones: The Tertius Iungens orientation as a source of network advantage)
さて、ジョブクラフティングの話に戻りましょう。「統括責任者からの追認」という明確な着地点がないなかで、如何にして創造的に再定義された仕事を追認するか。実はバウンダリースパナーにとっては、この社会ネットワークにおける構造的空隙の飽和プロセスこそが、彼らの再構築した組織体制に対する追認であるということになります。人間関係や協力関係といった非公式な浸透(接続の創出)が繰り返された後に正式な関係(契約の関係、パートナーシップ)として定着し、ブローカー自身の介在が不要になっていくプロセスそのものと、その各領域における往復運動こそが、組織間文脈における「浸透→追認→役割の縮小」=「ジョブクラフティング」であると再定義することができるでしょう。
バウンダリースパナーは、その存在が本質的に曖昧です。この主体は、相異なる二つの役割責任の(帰属の明快な)立場からのメッセージを多く引き受けることになり、自身の役割の葛藤や、その曖昧性を保留する粘り強い取り組みを乗り越えねばなりません。バウンダリースパナーの葛藤はそれだけではありません。この人は、飽和プロセスを自ら進行させるにつれて、自身の役割を自らの手でクロージングしていく感覚を覚えます。自らの職務を全うするほど、自らの功績を証明する手段を失っていく…彼らは、しばしば自身を「何でも屋」と言います。それは、自身のキャリアをそのように呼ぶことでしか説明できないためです。
最後に、これは私がコミュニティデザインといえば思い浮かべるあの人のことについてです。彼らの立場は、その媒介的な立場ゆえに、意図せずより強い側の組織のための正統化装置として機能させられるリスクを負います。彼らのような立場は、本来的に無償労働的に取り扱われやすく、ゆえに政治に回収されるリスクから自身を守らねばなりません。
◾️ 協働に関する責任
以上に述べた通り、バウンダリースパナーのイニシアチブは追認プロセスで一旦の達成となります。バウンダリースパナーにとっては、協働関係を設計すること自体が責任ある行為であり、その点では責任は達成しているわけです。
冒頭のイニシアチブの話と原理的には変わりません。そこから先は、繋がった組織間での対話に基づく分有的な責任が発生します。それぞれの主体がプロジェクトを実施しながら「自分たちは今何をすべきか?」を問い、「自分には状況を認識し、何らかの対応を開始する能力・位置があったので動いた」ということが、組織間で発生すると言うだけの話なのですが、この「追認」は非常に細やかに、それこそ各打ち合わせごとにやらなければいけない事柄ということになります。その意味で、組織間の協働では非常にスピード感を実感しながら自ずから進行していかなければなりません。デザインにおいては、常に形成された境界オブジェクトが権威となり、次の状況を形成し続けます。
3節 契約的ガバナンスと関係的ガバナンス
ここでは、今までの話の要点を組み込む形で、マネジメントについて言及していきたいと思います。
組織内でのプロセスから組織間へのプロセスへ拡張された「責任あるマネジメント」を定義するならば、それは単なる越境能力ではなく、ケースバイケースで境界を再構成する調整を組織の能力として形成すると言うことを含意しなければなりません。それは、おそらく組織内の力学として従来の成果・役割分担・キーパーソン・未来を問い直すと言うことです。 組織間協働においてAIRR framework を適用した時にプロジェクト設計のプロセスはこれまでと比べてどのように変化するのでしょうか。
これについての理論的枠組みが、経営学のダイナミック・ケイパビリティ理論(Teece)となります。
Teece, Pisano, & Shuen(1997)はダイナミック・ケイパビリティを、「急速に変化する環境に対応するために内外の能力を統合・構築・再構成する企業の能力」と定義しました。これは通常のケイパビリティ(「物事を正しく行う」=既存の計画を効率的に実行する)とは異なり、戦略的刷新(「正しい物事を行う」)に焦点を当てるものです。
Teeceはこれをさらに、①機会・脅威を感知すること(センシング)、②機会を捉えるために資源を動員すること(シージング)、③競争環境の変化に応じて有形・無形資産を再構成する(トランスフォーミング/リコンフィギュアリング)という3つのクラスターに整理しました。
マネジメントとは往々にして、プロセスにおける本来初期に定められるべきものと、その結果後半に明らかになるものとを整理して、その順番を遡行して管理することが肝要です。ここでも、その考え方を使って理論を整理します。
{A:評価、B:KPI、C:リスク}
この三つは、プロジェクトの基となる制約(トップダウンの体制では上位におかれるもの)です。つづいて、
{D:権限、E:部門構造、F:予算、G:契約}
この四つは、プロジェクトの中期に明確化していくものです。そして、最後に明らかになるのが
{H:情報}
です。適切なプロジェクトマネジメントのために、この最後に発生するHから遡行して整理していきましょう。
◾️ Phase1 情報を認識できない状況
最初に起きるのは、「自分たちの仕事の外側で何が起きているのか分からない」という問題です。企画段階では、組織の中での進捗や工程は把握できても、他社(仮にB社とします)の工程が遅れていることや、どれだけ遅れているか、B社とそのパートナー(仮にC社)との間で何が起きているのか等は把握できません。イニシアチブ以前にセンシング能力が欠けているためです。Teeceのセンシングは、市場情報だけではなく、技術・顧客・競争環境等を探索し、機会や脅威を認識する能力です。
「未来を見通すために必要な情報は何か」と「その情報を得るためには誰と密につながればいいか」をプロジェクト統括者は自発的に問い直す必要があります。組織の境界に縛られた硬直性の高い体制においては、他者の状況を見る権限がないことが悪さをして、このセンシングの自発性が失われてしまいます。マネジメントにおいては、これを「諦める」のではなく、仕組みづくりとして、「協働する目的を達成するための情報にアクセスできるよう、組織横断の状況把握に必要な情報だけ共有することができるようにしませんか?」と提案し、合意形成を試みます。単に「情報を全部見せる」ではなく、意思決定に必要な範囲だけ開示できるようにするのがミソです。つまるところ、情報コストや機密性との兼ね合いですね。
◾️Phase2 問題は見えたが、動けない状況
次に起きるのは、権限の問題です。
情報が得られると、「これはB社との調整が必要だ」という問題が見えてきます。しかし組織間においては、担当者レベルではB社に要求する権限がないことが多いです。現場への感度を高く保つプロジェクト統括者は、この問題を素早く拾い上げる必要があります。Teeceのシージングとは、感知した機会に向けて資源・人材を再配分する投資行動になり、この中に権限の交渉も含まれます。具体的には、条件付きの権限移譲ーー機会損失を減らすためにあらかじめ責任上限、発生する金額の上限、発生する工数および納期の上限を設定した上で、こういうことをお願いすることを今後可能にしていいですか?を交渉することです。不可逆な契約・大きな金銭・法的責任を伴う判断は必ず上位承認とするとこを予め押さえた上で、現場で決定可能な相互協力の範囲を増やすということをマネジメントします。
※誰と動けばよいのか分からない問題
さて、Phase2といざ実行しようとしたときに、関連して発生する問題が相手企業の別部署や体制のパートナーの問題です。相手企業の総務なのか施設管理部門なのか、技術部門なのか、相手側のPMなのか、デザイン方針の担当部門か、それがプロジェクト固有のインテリアデザイン系なのかブランディング管理者なのか品質管理系なのか…といった不透明性があるときに発生する問題です。
目の前にいる相手と、他者内調整部署が別部署である可能性をまずは確認する必要があります。もしその場合、窓口(境界責任者/プロジェクト統合者)を置き、部署横断の一時的チームを組む必要があります。これは、物件・案件ごとにキーパーソンを明確化するということですね。
◾️Phase3 実際に動こうとすると契約が壁になる状況
体制づくりの時に勘違いしがちなのが、先方担当者の善意に訴えても意味がないということです。大前提としてヒト対ヒトとしての関係性は重要ですが、結局のところ担当者が追加業務をすると責任だけが増えてしまう、といった状況では相手も動けません。動こうとして初めて契約が障壁として見えてきます。
追加対応を暫定的に実施し、一定条件で費用・責任・範囲を再協議する内容を含んだ契約がここで必要になります。
この契約がうまくいくためには、相手企業に対して、追加活動が恒常化した時点で契約変更しないならば停止すること、無償対応の常態化を許さないことをこちらが理解している、と相手に伝わっていることが必要です。プロジェクトの合意済み範囲が正式な手続きなしに少しずつ膨らんでいかないよう釘を刺しながら、一方で初動対応を柔軟化すること。これがマネジメントの難しさでもあります。
契約は静的で不可逆なものだと一般的には理解されていますが、AIRRフレームワークにおける契約的ガバナンスでは、この契約の更新を選択肢として残しておくことが「応答性」につながります。AIに詳しく方法論的を説明してもらうと、これは「契約に組み込まれた再交渉権(ステージゲート、サンセット/再開条項、持ち回りの共同運営委員会)による、事前に合意された再構成のタイミング」を確保するということらしいです。このあたりは、もう少し今後勉強していきたいと考えています。
※予算について
契約と連動して予算の問題が発生します。これはそれぞれの組織が内部的に解決すべき問題ではあるのですが、追加活動で発生する費用を支払うことができる探索・境界越境予算を小額の共通枠として設定し、一定額までは担当者が即時使用できるようにしておくことです。この範囲は、各社常識的な範囲で確保はしているのですが、いつ・どこまでをきちんと明らかにしておくことは重要です。また、この予算から他の赤字補填に使われるようなことは絶対にあってはなりません。また、反省性として、その越境行動がきちんと案件成立や問題解決に繋がったかどうかで評価することも忘れてはなりません。
◾️Phase4 やった結果、何を成果とするのか分からなくなる状況
先の二つのフェイズがシージングであり、ここからはTeeceのトランスフォーミング/リコンフィギュアリングになります。まずはKPIの問題から。
請負については、Output+Outcomeの二段階KPI(納品達成を最低条件にし、その上に共同成果を置く2つの評価軸)を設定することで組織内でのKPIを健全化できます。インセンティブ付与ですね。勿論、測定不能で不明瞭なOutcomeは主要KPIにしてはいけません。
次に、評価の問題。契約範囲を超えた仕事が評価されないのならば、バウンダリースパニングは持続不能な、利益追求と相反する理念となってしまいます。これについては、『協働貢献評価』を設定すれば良いかと思います。契約範囲の内外の行為そのものではなく「利益・リスク低減・案件拡大に寄与した成果」を評価する評価軸です。無償奉仕ではなく、売上 、粗利、再契約、リスク回避などに接続することで、バウンダリースパニングを健全に評価に組み込みます。
◾️Phase5 誰も動かなかった/誰が動いた の責任が不明の状況
最後に、リスクの問題です。特に、勝手に動いて問題が起きた時の責任が不明、と言う状況を常態化させてはいけません。これはむしろ、プロジェクトを経験した後に発見されることがあります。
例えば「次回はもっと早く動こう」 となったところで、「でも、前回それをやったら誰が責任を取るの?」 という問題が出てきます。つまりこれは単なるリスク管理ではなく、組織がイニシアチブを発揮できなかった根本原因としてプロジェクトの最後に発見されることがあります。この問題を解決するためには、まず以下の原則を組織内で構築する必要があります。
Initiative Safe Harbor:事前に定めた範囲内の善意の先行行動は、結果が不首尾でも自動的に個人責任にしない原則
これによって組織内に、「動いた方が損」を防ぎ、初動を速める効果をもたらします。ただし故意・重大過失は除外されるべきであり、特に不可逆な過失、法令違反などはセーフハーバーの範囲の外に置かれるべきです。
◾️ 組織間協働のプロセスはこれまでと比べてどのように変化するのか
2章までは、個人としてのバウンダリースパニングの話を行いました。3章では組織自体が自身の役割の閉塞感を打破して、複数組織間でイニシアチブをとるためのマネジメントと、契約の仕方の工夫、営業戦略、プロジェクト推進者の調整方法について理解を深めました。
組織間では、厳密な意味でプロジェクトのコントロールはできません。責任者にできるのは、状況の構築だけです。このリーダーに求められる「責任あるプロジェクト推進」能力としては、自組織が設定した役割・問題設定・評価基準を、外部から得た情報によって必要に応じて組み替え、その変更を実際の行為へ接続する能力と、異なる組織の人間が、それぞれの組織的論理を維持したまま、一つの問題に対して共同で行為できる状態を作る能力であるといえます。「うちはここまで」の問題を乗り越え、組織的な権限・資源・戦略によってイニシアチブを発揮していくための一助になればと思います。そして、その摩擦を減らすために、共同で情報を統合していく境界オブジェクトの活用が有効な選択肢となってくるのではないかと思います。
関係的ガバナンスと契約的ガバナンスは、本来相互補完的なものです。「まず非公式な関係を築き、後で契約に落とし込む」のではなく、関係構築と契約設計を並行して進めていくことが必要です。この並行して進めるということを具体的にイメージするために、先程説明した契約の問い直しや体制の問い直しといったひとつひとつのマネジメントがあります。
最後に
二つの記事を通して、役割に対する閉塞感を打破するため、イニシアチブをどのように発揮していけばいいのか/発揮する組織を作ればいいのかを、より複合的に考えてきました。それらは、現状の違和感を無視しないこと、その違和感の正体を考える主体としてデザインプロセスに関わることが大切なのではないか…と考えています。ただ所定範囲のプロジェクトを計画するのでなく、プロジェクトを動かしていく、そのためには個人・チームとしての前提を問い直していくことと、その違和感に対しては進むべき方向を補正する実効性のある主体としてプロジェクトに関与すること…これが、『責任』とデザインという事例を通して私が感じたことであり、私や皆さんの今後の方針の一つになるのではないでしょうか。